臓腑の兼病①と②
①心腎不交証:心と腎の間の陰陽水火の関係が失調した証候で、一般に心腎の陰虚陽亢証を指します。多くは久病で傷陰、或は思慮過多(考え事が多過ぎ)、情志化火により心陽偏亢、或は腎陰の損傷を招くかセックスの不節制、虚労等により、腎陰虧損、虚陽偏亢、心神擾乱、或は外感熱病による心火亢盛を招きます。
【臨床表現】:心煩不眠、驚悸多夢、めまい、健忘、耳鳴、腰膝酸軟、夢精、咽乾、五心煩熱、潮熱盗汗、尿黄、便結、舌紅、苔薄黄で少津、脈は細数。或いは腰と下肢のだるい、冷えを兼見する。
【証因分析】: 本証の弁証要点は不眠に心火亢盛と腎陰虚の症状が伴うことです。
生理上、心は火臓であり、下行して腎水を温めます;腎は水臓であり、腎水上行して心火を済します(助ける、抑えること)。これを心腎相交、又は水火既済と言います。腎陰不足ですと、腎陰を上済できないので心陽偏亢となります。また、心火が熾盛すると、下に及ぼし腎陰を損傷してしまうこともあります。いずれも、心腎の陰陽水火が協調既済の関係を失うので、そこから心腎不交の病理変化が形成されます。
腎陰虧少、水不上済、心陽偏亢、虚火内擾なので心神不寧となり、故に心煩不眠、驚悸多夢が見られます。陰精不足なので耳目失養、脳髄不充となり、故にめまい、健忘、耳鳴、腰酸、膝軟を招きます。陰不斂陽、相火偏旺、擾乱精室の故に夢精する。陰液損傷されるので口乾、盗汗、潮熱、尿黄、便結、脈細数を見ます。腰と下肢のだるい、冷えを兼見するのは、陰損が陽に及ぶか火不帰原、陰寒下凝のためです。
②心腎陽虚証:心腎臓の陽気が虚衰して温運できなくなった虚寒証候です。多くは長期の病が腎に及ぶ、或は労倦内傷によるものです。
【臨床表現】:動悸怔忡、形寒肢冷、或はぼんやりして、眠くなる。小便不利、顔や肢体の浮腫、或は唇甲が青紫色、舌質青紫或は暗淡、苔は白滑、脈は沈微細になります。
【証因分析】:本証の弁証要点は、心腎両臓の陽気虚衰で、全身の機能活動が低下状態になっていることです。心は君火で、血液を温運、推行し、腎は命火で、水液を気化し、心腎の陽が協調共済して、臓腑を温暖、血液を運行、津液を気化させます。故に心腎陽虚は常に陰寒内盛、血行瘀滞、水液停蓄の病変として表現されます。陽衰だと生体を温養できないので、形寒肢冷となります。心腎陽虚は心の鼓動乏力を招き、血液が温運させず血行瘀帯を招くので、心悸怔忡、唇甲青紫、舌質青紫暗淡、脈沈微が見られます。心腎陽衰は腎陽の水液気化不能を招き、水液が内で停滞するので、小便不利、肌膚に泛溢すれば身腫、水気凌心すれば怔忡喘息となります。
2つの証とも心と腎の兼証ですが、①は陰虚火旺の証、②は陽虚内寒の証で、正反対の証です。
(李)