こんにちは、周です。今回は中薬学の専門書についての話です。
中国の中薬学の専門書は数多くありますが、古代から流伝されるもの中で、≪神農本草経≫という専門書は、最初のものに数えられます。≪神農本草経≫は、略して≪本草経≫と称せられ、中国に現存する最古の中薬学に関する専門書であります。
何故「本草」と呼ばれるでしょう?古代の薬物が植物類、動物類、鉱物類から構成されますが、主に草木類であり、後漢時代の許愼の≪説文解字≫には、「薬は治病の草なり」とあります。「本草」という名称が、最初に現われたのは、漢の建始二年(BC三一年)に、≪漢書・郊祀志≫の中で、「本草待詔」との官名が記載されています。
≪神農本草経≫の完成年代は、後漢時代で、≪内経≫と同様、一人で著したものではないとされています。古代の「神農賞百草」の伝説の影響が大きいから、人々が「神農」の名を冠して、≪神農本草経≫と称します。
≪本草経≫に記載されている薬物は、365種があります、そのうち植物類(252種)を大半占め、動物類67種、鉱物類46種です。薬物の産地、別名、形態、薬性、効能などについて、簡要(簡単で要領がよい)な記述があります。序録に、用薬の基本理論を初歩的概括してあります。例えば、単味薬の使用、薬物の相互配伍及び応用(君・臣・佐・使)、薬物の配伍禁忌など。
産地や採集時期と加工方法の違いにより、薬性の違いが出てきます。炮製と製剤(例えば:天干し、日陰干し、丸・粉・散・水煎・酒浸・酒炒)について、論述してあります。用量についても、説明があります。毒性作用がある薬物には、特に慎重に、使用する際、必ず少量から始め、使用後の反応を見極め、少しずつ増量することによって、薬物中毒が重篤な結果を招かないように忠告しています。
≪本草経≫に記載されている薬物は、大部分は治療効果が確かで、今日に至るまで活用され続けています。例えば、麻黄は平喘、黄連は清熱解毒(湿熱による腹瀉・痢疾・嘔吐に有効、止瀉作用ある)、海藻は消痰軟堅、杜仲は補肝腎・強筋骨、猪苓は利水、黄芩は解毒、人参は補虚など。婦人科に常用される益母草について、過敏性皮疹に有効と初めて記載します。また、中国人が大好きな飲み物―茶は、≪本草経≫では、「苦槳」と呼び、「久服安心益気、聡察少臥」という醒脳提神の作用があると明記しています。
≪神農本草経≫は、後漢時代以前の医薬学と民間での用薬経験を、系統的に纏めたものであります。≪本草経≫に掲載されている薬物の大多数は、その後の長年にわたっての臨床経験の検証と現代薬学研究によって、薬効に信頼性があることを示され、今も盛んに用いられています。また、この本に記述されている薬物学理論と用薬原則は、現代医薬学の視点から見ても、その多くは正確で、且つ科学的な価値の高いものであります。同書に始まった薬物三品(上品・中品・下品)分類法についても、やや原始的、且つ粗雑で、一部に薬物分類上の誤りが認められるという欠点はあるもので、その発想は三品分類の枠組みを越え、後世の薬物分類の先駆けとなりました。
1972年に、甘粛省武威地区で発掘された東漢墓の中で、木簡(文字を書き記した木の札)を発見されました。その木簡に、約100種類の薬物を書き記してあり、その100種の薬物の多数は≪神農本草経≫に掲載しています。木簡が当時≪神農本草経≫に掲載されている薬物の使用状況を了解するには、役に立ちます。
≪神農本草経≫は中国古代の薬物学の定礎を築いたばかりではなく、後世の薬物学発展に計り知れない影響を与えました。