素問・陰陽応象大論篇 第五⑧
【原文】風勝則動、熱勝則腫。燥勝則乾、寒勝則浮、湿勝則濡寫①。天有四時五行。以生長收藏。以生寒暑燥湿風②。人有五藏化五気。以生喜怒悲憂恐③。故喜怒傷気、寒暑傷形④。暴怒傷陰、暴喜傷陽⑤。厥気上行、満脉去形⑥。喜怒不節、寒暑過度、生⑦乃不固。故重陰必陽、重陽必陰。故曰、冬傷於寒、春必温病⑧。春傷於風、夏生飧泄(そんせつ)⑨。夏傷於暑、秋必痎瘧(がいじゃく)⑩。秋傷於湿、冬生咳嗽。
【注釈】①風勝則動、熱勝則腫。燥勝則乾、寒勝則浮、湿勝則濡寫:「動」は動揺、振顫(風邪による)。「腫」は上文の「浮腫」と違って、(熱邪による)腫瘍のことである。「乾」は津液が涸れる(燥邪による)。「浮」は脹満浮虚、虚浮(寒気で陽気の損傷による)。「濡寫」は湿瀉(湿邪傷脾による)。
②天有四時五行。以生長收藏。以生寒暑燥湿風:「四時」は春夏秋冬、「五行」は木火土金水である。春主生(生まれ)、夏主長(成長)、秋主収(収穫)、冬主藏(封蔵);なお、春は木に属し風を化生する、夏は火に属し暑を化生する、長夏は土に属し湿を化生する、秋は金に属し燥を化生する、冬は水に属し寒を化生する。つまり、五行所属の話である。
③人有五藏化五気。以生喜怒悲憂恐:新校正は、「悲」が「思」の誤りとされる。「五気」とは、五臓の気である。人は五臓(心肝脾肺腎)が五気を化生し、それぞれ喜怒思憂恐という五志が生まれる。
④喜怒傷気、寒暑傷形:「喜怒」は、喜怒思憂恐という五志の概括で、「寒暑」は寒暑燥湿風(熱)という六淫の概括である。五志は内から発生するので、故に先に五臓の気を損傷する;六淫は外から入るので、故に先に体の形を損傷する。
⑤暴怒傷陰、暴喜傷陽:張介賓は次のように説明した:「気は陽、血は陰である。肝は血を蔵し、心は神を蔵する。暴怒だと、肝気逆し、肝血を損傷する、故に傷陰。暴喜だと、心気が緩で神が散逸する、故に傷陽。」
⑥厥気上行、満脉去形:王冰の解釈は、「厥気とは逆行の気である。気逆上行し、経絡に充満するから、神気が形体から離れる。」である。
⑦生:生命。
⑧冬傷於寒、春必温病:冬は寒邪が侵入し易い、直ぐに発病する場合は、陰経に直中し傷寒になる;直ぐに発病しないものは、春になると、陽気が昇発するため、営気が虚弱し、体内あった寒邪が外の陽邪に合わせて温病になる。
⑨飧泄(そんせつ):肝鬱脾虚、清気不昇により、便に消化されてない物が混じっている泄瀉のことである。
⑩痎瘧(がいじゃく):瘧疾(じゃくしつ、マラリア)の総称である。
【説明】
本節は病因(特に六淫と情志)弁証の要点を強調した。なお、「六気致病」の病機学説の内容を豊富にした。例えば、動揺不定、振顫などの症状を「風」の象に、津液乾涸の証候を内燥と考える。
なお、泄瀉の治療に、よく健脾で運湿、苦温で燥湿、淡滲で利湿、芳香で化湿、助陽で温化寒湿、苦寒で清泄湿熱などの方法を用い、みんな「湿勝則濡寫」の理論の基に制定した治療方法である。
(李)