素問・金匱真言論篇第四④
【原文】故春善病鼽衄⑤、仲夏善病胸脇⑥、長夏善病洞泄寒中⑦、秋善病風瘧⑧、冬善病痹厥⑨。故冬不按蹻⑩、春不鼽衄、春⑪不病頸項、仲夏不病胸脇、長夏不病洞泄寒中、秋不病風瘧、冬不病痹厥、飧泄而汗出也⑫。夫精者、身之本也、故藏於精者、春不病温⑬;夏暑汗不出者、秋成風瘧。此平人脉法也⑭。
【注釈】⑤故春善病鼽衄:「鼽(きゅう)」とは、鼻詰まりと鼻水のこと、「衄(じ)」とは、出血で、ここは鼻血のことです。春には鼻の病症が多い。
⑥仲夏善病胸脇:旧暦の五月は夏の真ん中で、「仲夏」と言います。夏気者は病が心臓にあり、心の脈は胸脇に沿っているので、故に、仲夏には胸脇部の病症が多いという。
⑦長夏善病洞泄寒中:「洞泄」は、泄瀉が続くことです。「寒中」とは、内寒である。中央は土で、病は脾にあり、脾が運化を主る。故に、長夏に脾の病症が多く、しかも脾陽虚衰し易いから、長い泄瀉と内寒の病症が多い。
⑧秋善病風瘧:「風瘧(ふうぎゃく)」は瘧疾の一種です。夏は疏泄が宜しい。もし、逆に汗が出ないなら、暑邪が体内に潜伏し、秋の風に遭遇すると、金寒と火熱が戦い、瘧になる。
⑨冬善病痹厥:「痹厥」とは、関節の痺痛、手足の痺れと冷えるなどの症状を指します。四肢は諸陽の本であるので、冬に陽気が下蔵するので、外の経気は虚し、風邪が経に入り、故に、手足の痺厥が発生する。
⑩按蹻:「按」とは、按摩で、「蹻(きょう)」とは、導引のことです。「按蹻」とは、按摩・気功・体操など養生の方法です。
「冬不按蹻~冬不病痹厥」について、文字の誤りと省略があると指摘されています。李治の『古今黈』には、春夏秋冬四時、皆宜導引と言っています。本篇は次のように理解すれば、宜しいと思います:「冬不按蹻、春必鼽衄、或病頸項;春不按蹻、仲夏必病胸脇;夏不按蹻、長夏必病洞泄寒中;長夏不按蹻、秋必病風瘧;秋不按蹻、冬必病痹厥。」
張介賓の注釈は、「冬に元気は陰に伏蔵する。もしその時に筋骨をむりやり動かしたら、精気(元気)が泄越(出て来る)し、その結果は、春夏秋冬にそれぞれの病証が生じる。故に、冬は蔵を主とする養生するべきである。そうすると、春の陽気が昇発しても、陰精が堅固であるから、鼽衄と以下の病証がない。」
⑪春:呉崑はこの「春」を削除した。
⑫飧泄而汗出也:『新校正』によると、この六文字も削除してもよい。
⑬藏於精者、春不病温:上文の張介賓の注釈と同じ、冬に「蔵精」することが大事だと強調した。
⑭此平人脉法也:ここの「脉法」は、「診法」を指します。『新校正』では、「夏暑汗不出者、秋成風瘧。此平人脉法也」この十六文字は上文との繋がりがないと主張した。故に、この十六文字は他経の脱文の可能性があります。
【説明】
この節(前回の分を含む)は、人と自然が統一する「四時五蔵陰陽」理論を元にして、四時八風の邪が致病する一般的な規律(五臓の病変)を論述した。この内容は、『素問・四気調神大論』の主旨と一致しています。主に病位を論述した。王氷の「各随其臓気所応」の観点がその体現です。
この節は、特に二つのことを強調した。その一は、冬の養生(蔵気)です。これは、腎の精気が四時発病に対して重要な意義があるのを際立たせた。その二は、「冬不藏精、春必病温」の理論は、後世の温熱病の伏気学説に理論基礎を定めた。
(李)