素問・霊蘭秘典論篇第八②
【原文】脾胃者、倉廩之官、五味出焉⑦。大腸者、伝道之官、変化出焉⑧。小腸者、受盛之官、化物出焉⑨。腎者、作強之官、伎巧出焉⑩。三焦者、決涜之官、水道出焉⑪。膀胱者、州都之官、津液藏焉、気化則能出矣⑫。凡此十二官者、不得相失也⑬。故主明則下安、以此養生則寿、歿世不殆、以爲天下則大昌⑭。主不明則十二官危、使道閉塞而不通、形乃大傷⑮、以此養生則殃、以爲天下者、其宗大危、戒之戒之⑯。
【注釈】⑦脾胃者、倉廩之官、五味出焉:「倉廩」とは、穀物の倉庫です。『礼・月令』に「穀蔵は倉と謂う、米蔵は廩と謂う」との記載がありました。脾は運化を司り、胃は受納を主る、「水穀の海」と称されるので、倉廩の官と喩えられる。五味の営養が脾胃の働きで消化吸収され、全身へ輸送されます。
⑧大腸者、伝道之官、変化出焉:大腸は伝道の官で、食物の糟粕を伝送し、また、それ(糟粕)を糞便に変化させ、排出します。
⑨小腸者、受盛之官、化物出焉:小腸は受盛の官で、胃から食物を引き受け、また、さらに(食物の)清濁を分化します。
⑩腎者、作強之官、伎巧出焉:「作強」とは、作用が強いという意味です。「伎」は「技」と通じ、多能の意味です。腎は精を蔵し、精は神を生じる。精と神が十分あれば、身体の作用は強く、技能や巧みが出て来るので、「腎は巧技の出るところだ」と言います。
⑪三焦者、決涜之官、水道出焉:「決」は通り、「涜」は水道の意味で、「決涜」は水液の通り道という意味です。『類経・蔵象類・一』にこう言っています:「上焦が治まらなければ、高原に水が氾濫する;中焦が治まらなければ、中脘に水が溜まる;下焦が治まらなければ、二便に水が乱れる。三焦の気が治まれば、脈絡が通じ、水道が通暢である。故に、三焦を決涜の官と称する。」
⑫膀胱者、州都之官、津液藏焉、気化則能出矣:「州」は「洲」と通じ、水中の陸地です。「都」とは古代蓄水の処です。膀胱は尿液を蔵畜する処、尿は津液の余りなので、「膀胱は津液を蔵する」と言われます。気化作用によって、尿を排出します。
⑬凡此十二官者、不得相失也:以上の十二官(器官)は、それぞれの役割がありますが、相互関係が失調してはいけない(相互協調し合うべき)です。
⑭故主明則下安、以此養生則寿、歿世不殆、以爲天下則大昌:「歿」(ボツ)は「沒」(モツ)と通じ、「歿世」は一生の意味で、「歿世不殆」は、終身に危殆(きたい、危険な状態)がないという意味です。君主が賢明であればその部下も安定であり、この道理に従って養生すれば長寿になり、終身に危険な状態が発生しない。この道理に従って天下を治めれば国家が繁栄し盛んになります。
⑮主不明則十二官危、使道閉塞而不通、形乃大傷:「使道」とは、「神気相使の道」、臓腑相使の道です。君主が賢明でなければ十二官にも危険が発生し、臓腑相使の道が塞がれ(各器官が正常な機能を発揮できず)、形体に大いに障害が発生します。
⑯以此養生則殃、以爲天下者、其宗大危、戒之戒之:このようにして養生するなら、災害が招致され、寿命が縮みます。同じく、このようにして天下を治めるならば、その政権が危険に陥ってしまう。くれぐれも用心して下さい。
【説明】
本節は、「十二官」を臓腑間の「相使」と「貴賤」関係を説明しました。その中、心は五臓六腑の主宰で、「主明則下安」、「主不明則十二官危」というふうに強調しました。
なお、「十二臓腑相使(互いに使う)、不得相失」という観点を提唱しました。これは、重要な意義があります。各臓腑は機能上相互配合、相互利用し、協調し合う関係を持っていることと、人体の整体性を示しました。この整体観は、蔵象学説の基本観点の一つで、中医学理論体系の基本特徴の一つでもあります。
(李)