四.肺臓の五味宜忌
一般病理:①「白色宜辛」;「肺病者、宜食黄黍、鷄肉、桃、葱」など辛味(『霊枢・五味』)。辛味は肺に入り肺へ補益作用があります。②「肺病禁苦」(『霊枢・五味』)。肺は金に属し、苦は火の味で肺金を尅するので、
肺(気)虚の場合、「苦味」を禁忌します。
特殊病理:①「肺色白、宜食苦。麦、羊肉、杏、薤皆苦」(『霊枢・五味』);②「肺苦気上逆、急食苦以瀉之」(『素問・蔵気法時論』)。ここは、
肺気上逆の実証場合に、急いで苦味のものを食べ、その「瀉」の作用を利用し、上逆の肺気を降することを指します。③「肺欲収、急食酸以収之;用酸補之、辛瀉之」(『素問・蔵気法時論』)。
肺気虚で気が渙散し収斂できず、故に早めに酸味のものを食べ、斂気(肺気を収斂)します。斂気することで正常に回復させるので、補と言います。辛味の作用は酸味と反対なので、瀉と称します。辛味は、酸味が収斂し過ぎないように、補佐となる役目を果たします。
禁多食辛味:①「病在気、無食辛」(『霊枢・九鍼論』)、「辛走気、気病無多食辛」(『素問・宣明五気篇』)。甘味は気に入り、気を発散させる。故に気虚の場合に、辛味を控え、気の消耗を防ぎます。②「辛走気、多食之令人洞心」(『霊枢・五味論』)。「洞心」は心の空虚感(びくびくする)意味です。辛味は陽に属し、上焦の気分に入り、辛味を取り過ぎると心竅が開き、心気が散って、心の空虚感を覚えます。③「多食辛、則筋急而爪枯」(『素問・五蔵生成篇』)。辛は金味で、肝は筋を主る、其の華は爪にある。肺金は肝木を尅すので、故に辛味を摂り過ぎると筋の痙攣や爪の枯れなどの症状を招きます。
五.腎臓の五味宜忌
一般病理:①「黒色宜咸」;「腎病者、宜食大豆黄巻、豕肉、栗、藿」など咸味(『霊枢・五味』)。咸味は先に腎に入り腎臓へ補益作用があります。②「腎病禁甘」(『霊枢・五味』)。甘は土の味で、腎は水臓です、甘味を取り過ぎると、腎水を尅するので、故に
腎(気)虚の場合、「甘味」を禁忌します。
特殊病理:①「腎色黒、宜食辛。黄黍、鷄肉、桃、葱皆辛」(『霊枢・五味』);「腎苦燥、急食辛以潤之」(『素問・蔵気法時論』)。ここは、
腎陽不足で気化不利の場合で津液の分布ができず、干燥を感じることを指します。この場合は、辛味のものを食べ、「気化」作用を助けると良いというのです。故に「潤之」と言います。②「腎欲堅、急食苦以堅之;用苦補之、咸瀉之」(『素問・蔵気法時論』)。腎の中に
相火妄動し、陰精が堅固されず(丈夫でなくなる)、故に苦味のものを食べ、堅陰し(陰精を固め)て、封蔵の性能を回復させるので、補と言います。咸味は、苦味の作用が発揮し過ぎで腎臓を損傷しないように、補佐となる役目を果たします。故に瀉と言いますので、「瀉」といいます。
禁多食咸味:①「病在骨、無食咸」(『霊枢・九鍼論』)、咸味は先に腎に入り、腎は骨を主る。咸味は腎に補益作用があるが、摂り過ぎると腎と骨を損傷することになります。②「咸走血、多食之令人渇」(『霊枢・五味論』);「咸走血、血病無多食咸」(『素問・宣明五気篇』);「多食咸、則脈凝濇而変色」(『素問・五蔵生成篇』)。なお、『類経・気味類三』の注釈にも、「血は水に化生されたもので、咸も水に属すものである。故に咸味は血に入る。咸味を摂りすぎると、血液は凝結する。そのため、水分が血液を稀釈するので、津液が足りなくなり、口渇を感じる。」血液が凝縮したら、顔色が変わります。
以上の纏めでは、人体が生理と病理状態の変化によって、五味に対する宜忌も変わることを説明しました。なお、『内経』に論述したのは、基本原則であるので、養生や病気を治療する際、五味の応用理論にあまり拘らず、臨機応変するべきです。
では、今回をもって、『霊枢・五味』の勉強は終わりにしましょう。次回からは、『霊枢・海論』を討論しましょう。
(李)