素問・経脈別論篇第二十一④
【原文】食気入胃、散精於肝、淫気於筋①。
食気入胃、濁気帰心、淫精於脉②、脉気流経、経気帰於肺、肺朝百脉、輸精於皮毛③、毛脉合精、行気於府、府精神明、留於四蔵④、気帰於権衡、権衡以平、気口成寸、以決死生⑤。
飮入於胃、遊溢精気、上輸於脾、脾気散精、上帰於肺⑥、通調水道、下輸膀胱⑨、水精四布、五経並行⑩。合於四時五臟陰陽、揆度以爲常也⑪。
【注釈】①食気入胃、散精於肝、淫気於筋:「食気」とは食物(五穀)です。ここの「淫」は滋養の意味をします。五穀の「食気」が胃に入り、一部の精微が肝に輸送して、なお肝がその精微の気で筋を滋養する。
②食気入胃、濁気帰心、淫精於脉:ここの「濁気」は食気中に営養濃厚の部分を指す(『類経・臓象類・十二』、『霊枢・陰陽濁気篇』)、所謂営気です。五穀の「食気」が胃に入り、化生された精微の気(営気)が心に注ぎ、心がその気で血脈を滋養する。
①と②について、『素問経注節解・巻二』が次のように説明した:食物の化生は、清と濁がある。清は気に化し、気は無形で五臓を推動する。その布散は肝気に頼るので、故に「散精於肝」と言う。濁は血に化し、血は有形で心脈を経由して全身を営養する。故に、「濁気帰心」と言う。
③脉気流経、経気帰於肺、肺朝百脉、輸精於皮毛:なお、血脈に流れている精微の気が肺に到達し、また肺がそれを全身の百脈に輸送する。最後にその精気を皮毛まで届ける。
肺は気を主り、十二経の最初の経です。周身の経脈は肺経に合流する。気血が諸経脈に運行するには、肺気の推動に頼る。故に「肺朝百脉」と言う。
④毛脉合精、行気於府、府精神明、留於四蔵:「毛脉」とは気血、つまり肺が主る皮毛と心が主る脈のこと指す。「府」は膻中、つまり胸中を指す。「神明」とは運動変化が正常であることを指す。精(気血)が胸部で合流し、正常に変化しながら各臓腑まで遍く流れる。
⑤気帰於権衡、権衡以平、気口成寸、以決死生:(これらの正常な生理活動に)気血陰陽の平衡が必要です。気血陰陽の平衡具合が気口(寸口)の脈拍変化で判る。気口の脈拍が病人の生死を判断できる。
⑥飮入於胃、遊溢精気、上輸於脾、脾気散精、上帰於肺:飲(水液)が胃に入り、その精気が遊溢布散される、上行して脾に輸送され、なお脾気が散精し、肺まで布散する。
⑨通調水道、下輸膀胱:「水道」とは三焦のことです。(肺が清粛と治節を主り、肺気が運行して)三焦を通調し、(水液を)下の膀胱まで輸送する。
⑩水精四布、五経並行:水液と精気が五臓の経脈と並行し、周身へ布散される。
⑪合於四時五臟陰陽、揆度以爲常也:「揆度」は測度の意味です。四時(四季)寒暑と五臓陰陽の変化に応じ、適宜な調節する。これが経脈の正常な生理現象です。
【説明】
本節は水穀が身体に入ってからの消化吸収及びその営養成分(精微)輸布過程を詳細に紹介した。
また、寸口脈の切診は諸経脈の変化を判断できると説明した。寸口の部位に肺の経脈が通っているだけではなく、肺経の経渠(経穴)、太淵穴(兪穴・原穴)のところに当てる。『難経・六十八難』に経と兪の両穴は気血流注が旺盛の所在だと指摘している、故に寸口脈が肺脈の変化を判断できる。なお、肺は「主治節、朝百脈」であるので、諸臓の気血平衡は肺脈の気口で現れる、故に寸口脈を「気口」と言い、「以決死生」と考える。
(李)