霊枢・大惑論第八十⑤
【原文】黄帝曰:人之善忘者、何気使然①?岐伯曰:上気不足、下気有余、腸胃実而心肺虚、虚則営衛留於下、久之不以時上、故善忘也②。
黄帝曰:人之善飢而不嗜食者、何気使然③?岐伯曰:精気并於脾、熱気留於胃、胃熱則消穀、穀消故善飢④。胃気逆上、則胃脘寒、故不嗜食也⑤。
【注釈】①人之善忘者、何気使然?:ある人はよく健忘する、原因は何?
②上気不足、下気有余、腸胃実而心肺虚、虚則営衛留於下、久之不以時上、故善忘也:人体上部の気が不足して下部の気があまるからです。つまり、腸胃の気が「実」で心肺の気が「虚」になり、心肺気虚ですと、営衛の気が下部に留り、長くなると時間通りに上行できなくなり、健忘が発生する。『類経・疾病類・八十一』は次のように説明しています:「上気不足」に対して「下気有余」といい、下部に本当の「実」ではない。上部の心肺が虚し、営衛が下部に留り、神気が身体を回らないから、善忘がする。これは上部に陽気衰弱を兆しである。
③人之善飢而不嗜食者、何気使然:ある人はよく飢えるが食べたがらない、原因は何?
④精気并於脾、熱気留於胃、胃熱則消穀、穀消故善飢:精気が脾に留ると、熱気が胃に蘊着する。胃熱が甚だし過ぎると、水穀を消化し易くなる。水穀が速く消化されるとよく飢えを感じる。「精気并於脾、熱気留於胃」についての解釈も幾つがありますが、『霊枢集注・巻九』の解釈は次です:「脾は胃の津液を運化する、精気が脾に留ると脾が実になり、胃の転送機能を助けられなくなるから、熱気が胃に留り、消穀で善飢する」。これに従います。
⑤胃気逆上、則胃脘寒、故不嗜食也:胃気が逆上すると、胃脘部が塞がられ、不通になるから、食べたがらない。「胃脘寒」について二つの解釈があります。その一は『類経・疾病類・八十一』に「胃気逆上で運行できず、即ち其の寒である。脾胃熱だが胃脘が寒だから、飢えるが食べたがらない」との記載がありました。その二は、『甲乙経・巻十二・第一』に「寒」は「塞」の誤字だと記載しています。胃気上逆で和降できず、胃が塞がっていて受納ができなくなるから、食べたがらない。『甲乙経』の解釈に従います。
【説明】
本節に説明したことは二つあり:1、営衛の気が中焦に停滞し正常に輸布されなく、上焦の心肺の気虚を引き起こし、心肺気虚で神気が周身に回らなくなる、故に善忘する。心肺気虚の原因の一つは腸胃気滞である。故に臨床では、不眠や健忘、思惟の混乱で迷惑に近いものを治療の際、中焦の気滞を解除するのも有効な方法になります。
2、胃に熱があると、消穀善飢するが、気逆で和降できなくなるため食欲がないという論述は臨床的指導意義があります。消穀善飢の症状がある場合、胃熱の範囲に属し、清瀉胃熱が治法である。しかし、薬を使う時、寒涼類のものを使い過ぎないとうに慎重に選ぶべきです。胃気が損傷されたら、食欲がなくなるからです。
(李)