霊枢・大惑論第八十⑦
【原文】黄帝曰:人之多臥者、何気使然①?岐伯曰:此人腸胃大而皮膚湿、而分肉不解焉。腸胃大則衛気留久、皮膚湿則分肉不解、其行遅②。夫衛気者、昼日常行於陽、夜行於陰、故陽気尽則臥、陰気尽則寤③。故腸胃大則衛気行留久;皮膚湿、分肉不解、則行遅。留於陰也久、其気不清則欲瞑、故多臥矣。其腸胃小、皮膚滑以緩、分肉解利、衛気之留於陽也久、故少瞑焉。黄帝曰:其非常経也、卒然多臥者、何気使然④?岐伯曰:邪気留於上焦、上焦閉而不通、已食若飮湯、衛気留久於陰而不行、故卒然多臥焉⑤。
【注釈】①人之多臥者、何気使然:ある人は睡眠が多い、それは何故?
②腸胃大則衛気留久、皮膚湿則分肉不解、其行遅:腸胃が大きければ、衛気の停留する時間が長くなる、皮膚が渋滞すれば、筋肉が潤滑でなくなり、衛気の運行が遅くなる。「腸胃大」とは形体が太っていることを指す。「湿」は「渋」の意味で、「胖人に痰湿が多い」ということを指す。
③衛気者、昼日常行於陽、夜行於陰、故陽気尽則臥、陰気尽則寤:衛気は日中常に陽分に走行し、夜中は陰分に走行する。故に、陽分に衛気が終わると寝る、陰分に衛気が尽きると起きる。
④其非常経也、卒然多臥者、何気使然:ある人は常に嗜睡ではなく、突然睡眠が多いという現象がある、それは何故?「非常経」とは偶然の意味です。『類経・疾病類・八十三』に次のように記載しています:「非常経とは、変わったことを言う、ここは、(嗜睡が)邪気によるものを指す」。
⑤邪気留於上焦、上焦閉而不通、已食若飮湯、衛気留久於陰而不行、故卒然多臥焉:邪気が上焦に停留すると、上焦が閉塞される。それに、また食後たくさん飲んだら、衛気が陰分(体内)にながく停留し外へ出られなくなる。故に突然睡眠が多いとの現象が発生する。
【説明】
本節は、さらに体質と感受邪気二つの方面から、多眠と少眠の機理を説明した。睡眠異常を引き起こす原因について『内経』に記載してあるところを本篇に合わせて、次のように纏めました:
1、体質素因:痰湿偏盛(本篇が記載)
2、年齢素因:『霊枢・営衛生会』篇に「壮年の者は気血が旺盛であり、その筋肉が滑利、気道が通じ、営衛が正常に通行できる。故に昼間に活気があって、夜間に寝る。老者の場合は気血が虚弱し、筋肉が枯れ、気道も渋くなり、五臓の気が相搏する、その営気が少なく衛気も中で消耗されてしまう、故に昼間に元気がなく、夜中に不眠する」と記載し、これは、営衛が虚弱すれば元気がなくなり、睡眠異常が発生するという病理現象を説明した。
3、胃気上逆:胃気不降で上逆すると、中焦の転送機能が利かなくなる、衛気の運行へ影響を与え、不眠になる(『逆調論』)。なお、『下経』にも「胃不和ならば、臥不安となる」と書かれています。
4、邪気が臓腑経脈に停留する:邪気が臓腑経脈に入ると、気血を阻み、或は陰陽を乱し、不眠或は嗜睡を引き起こす(本篇)。なお、『邪客』、『刺熱論』、『評熱論』、『逆調論』、『熱論』などの篇にも関連する論述があります。
(李)