素問・五蔵生成論篇第十⑥
【原文】診病之始、五決爲紀①。欲知其始、先建其母②。所謂五決者、五脈也③。是以頭痛巓疾、下虚上実、過在足少陰、巨陽、甚則入腎④。徇蒙招尤、目冥耳聾、下実上虚、過在足少陽、厥陰、甚則入肝⑤。腹滿瞋脹、支鬲胠脇、下厥上冒、過在足太陰、陽明⑥。咳嗽上気、厥在胸中、過在手陽明、太陰⑦。心煩頭痛、病在鬲中、過在手巨陽、少陰⑧。
【注釈】①診病之始、五決爲紀:診病の根本は、五決を綱紀とするべきである。「紀」とは綱要、綱紀である。
②欲知其始、先建其母:疾病のもとを知りたいであれば、先に病変を引き起こす原因を確定するべきである。「建其母」についての注釈は幾つがある。『素問呉注・巻三』では、「母」とは、時令に応じる胃気(脈)を指す。例えば春の脈は微弦……弦脈が甚だしい場合は、その病が肝から始まってと知り、その「母」である肝を治療する……故に「建其母」とは胃気を中和することだと主張する。『類経・疾病類・十四』では、「母」を病因とされる。
③所謂五決者、五脈也:所謂五決とは、五臓の脈である。これで診病すれば、疾病のもとを知ることができる。「五脈」とは五臓の脈で、例えば、肝脈は弦である。
④是以頭痛巓疾、下虚上実、過在足少陰、巨陽、甚則入腎:例えば、頭痛など巓頂部位の疾患で下虚上実に属されるもの、その病変は足少陰経と足太陽経にあり、病気が甚だしい場合は内伝して腎に入る。「下虚上実」について、『類経・疾病類・十四』では、膀胱経の直行部分は巓頂から絡脳に入る、腎経が虚で膀胱経が実であると説明している。
⑤徇蒙招尤、目冥耳聾、下実上虚、過在足少陽、厥陰、甚則入肝:眩暈し目がかすむ、身体が震え、視力と聴力が落ちる病状で下実上虚に属されるもの、その病変は足少陽経と足厥陰経にあり、病気が甚だしい場合は内伝して肝に入る。「下実上虚」について、『類経・疾病類・十四』では肝胆の気が下に実し、上に虚しであると説明している。
⑥腹滿瞋脹、支鬲胠脇、下厥上冒、過在足太陰、陽明:腹部が脹満し、胸膈と脇を突っ張り、下部の気逆が上犯するものであれば、その病変は足太陰経と足陽明経にある。「下厥上冒」について、『類経・疾病類・十四』では、気血が逆上で四肢が厥冷、濁気が不降で胸腹部が脹満すると説明している。
⑦咳嗽上気、厥在胸中、過在手陽明、太陰:咳嗽と喘ぐ、気機が胸中で厥乱してある場合、その病変は手陽明経と手太陰経にある。
⑧心煩頭痛、病在鬲中、過在手巨陽、少陰:心煩頭痛、胸膈に不快感がある場合、その病変は手太陽経と手少陰経にある。
(続く)
(李)