素問・至真要大論篇第七十四(選び出す)⑧
【原文】帝曰:善。夫百病之生也、皆生於風寒暑湿燥火、以之化之変也①。経言盛者瀉之、虚者補之、余錫以方士、而方士用之、尚未能十全、余欲令要道必行、桴鼓相応、猶拔刺雪汚、工巧神聖、可得聞乎②?岐伯曰:審察病機、無失気宜③、此之謂也。帝曰:願聞病機何如?
岐伯曰:諸風掉眩、皆属於肝。
諸寒收引、皆属於腎。
諸気膹鬱、皆属於肺。
諸湿腫滿、皆属於脾。
諸熱瞀瘛、皆属於火。
諸痛痒瘡、皆属於心④。
諸厥固泄、皆属於下。
諸痿喘嘔、皆属於上。
諸禁鼓慄、如喪神守、皆属於火。
諸痙項強、皆属於湿。
諸逆衝上、皆属於火。
諸脹腹大、皆属於熱。
諸躁狂越、皆属於火。
諸暴強直、皆属於風。
諸病有聲、鼓之如鼓、皆属於熱。
諸病胕腫、疼酸驚駭、皆属於火。
諸轉反戻、水液渾濁、皆属於熱。
諸病水液、澄澈清冷、皆属於寒。
諸嘔吐酸、暴注下迫、皆属於熱。
故大要曰、謹守病機、各司其属、有者求之、無者求之、盛者責之、虚者責之、必先五勝、疏其血気、令其調達、而致和平⑤、此之謂也。
【注釈】①夫百病之生也、皆生於風寒暑湿燥火、以之化之変也:多くの疾病の発生は、風寒暑湿燥火の変化によるものである。「之化之変」とは、~の変化のことで、ここは、風寒暑湿燥火という六気の変化を指す。
②経言盛者瀉之、虚者補之、余錫以方士、而方士用之、尚未能十全、余欲令要道必行、桴鼓相応、猶拔刺雪汚、工巧神聖、可得聞乎:医経に言う、盛者(実証)に瀉法で治療、虚者(虚証)に補法で治療。私は、この方法を医工(中国古代の医事制度による官員の1つ)に教え、医工がこのように使用したが、十分な効果を得られなかった。私は、これら重要な理論を普及し、しかも「拔刺雪汚」という工巧神聖のように、「桴鼓相応」的(相応な)効果を得られて欲しい。このような望聞問切の診察方法や技巧を聞かせて下さい。
③審察病機、無失気宜:疾病の発生と発展変化の機理を審察の時、気宜を失ってはおけない。「気宜」とは、六気主時の規律を指す。六気と時節が相応であれば、人は健康である;六気と時節が不相応であれば、人は病気になる。
④諸風掉眩、皆属於肝~諸痛痒瘡、皆属於心:凡そ風病、震顫や眩暈は皆肝に属す。凡そ寒病、収引拘急(四肢・両脇・小腹に多く現れる、ひきつり痙攣)は皆腎に属す。凡そ気病、喘急胸悶は皆肺に属す。凡そ湿病、浮腫腸満は皆脾に属す。凡そ熱病、神志昏迷、肢体抽搐は皆火に属す。凡そ疼痛掻痒の瘡瘍は皆心に属す。
膹鬱(ふんうつ)とは、胸部満悶、呼吸不利、気機鬱閉の肺気上逆の症状である。
瞀瘛(ぼうせい)とは、意識がもうろうとして手足が拘縮し痙攣する症状である。
*「諸風掉眩、皆属於肝~諸嘔吐酸、暴注下迫、皆属於熱」を「病機十九条」という。「諸、皆」とは多数の意味である。
⑤故大要曰、謹守病機、各司其属、有者求之、無者求之、盛者責之、虚者責之、必先五勝、疏其血気、令其調達、而致和平:故に『大要』が言う、謹んで病機を把握して、その所属の関係を観察し、邪気があるもの、邪気がないものを探求するべき、実証も虚証も詳細に研究するべきである。先ず、五気の所勝を分析して、その気血の疎通し通暢させる、それで平和に戻される。
【説明】本段は、五臓、六気及び上下部位の病変に常見する症候と機理をまとめ、そして、著名なる病機十九条を提出したうえ、その重要性を述べている。これらは中医弁証の基本的な方法の一部である。なお、中医の病機学説の理論基礎の土台となり、後世医学の発展及び臨床実践に重要な意義を示している。
病機十九条は、定位・求因・弁性などいくつの方面から、病機を分析の方法し示した。
病機十九条は一部の病証を纏めたものであるが、簡略であり、十分に正確ではないので、後世、歴代の医家はそれを補充や発展させたりしている。特に金元四大家の一人である劉元素が著した『素問元気現病』、『素問病機気宜保命集』などは、素問の病機十九条について詳しい説明や補充したうえ、臨床に合わせ、病理・診断・治療など多方面から独特な見解を提出している。
(李)